書評 写真のケミストリー

銀塩写真の化学的なプロセス、薬品の働きについて知りたいけれど、どういう本で学べばいいかわからない。そう思う方がいらっしゃると思います。

そういう方に向けて本記事では『写真のケミストリー』三位信夫、大野隆司編著、久下謙一、小林裕幸著、丸善、2001 をご紹介します。

写真のケミストリー

今回取り上げるのは、三位信夫、大野隆司編著、久下謙一、小林裕幸著、画像工学シリーズ11 『写真のケミストリー』です。

本シリーズは千葉大学工学部画像工学科の教授陣によって企画されました。画像工学の全容を把握したい技術者へ向けて、また大学生の教科書として読まれることも意図しています。

シリーズ11の本書は2001年に出ています。タイトルは『写真のケミストリー』ということで、写真の化学(=ケミストリー)について書かれています。カラーやモノクロのフィルム、印画紙、インスタント写真(ワンステップ写真)などの銀塩写真の内容を扱っています。

フィルムや印画紙、薬品の化学的なことに興味のある方にはたいへん参考になる内容になっています。

本書は学術的な内容、書かれ方であり、写真の化学にあまり興味のない方には堅いと感じられると思います。例えば、現像の化学的プロセスを知って満足げに微笑んでしまうような方向けに書かれています。



目次

1 銀塩写真の誕生と感光材料の発展

2 銀塩写真の特徴と銀塩写真感光材料

3 写真の感光と感光理論

4 現像処理の化学

5 ワンステップ写真

6 写真画像の保存

7 環境保全と省資源

版元ドットコム(参照 2023/03/19)より




化学的な説明がたくさん

現像、停止、定着、水洗促進、水洗の各工程について化学的な説明がたくさん書かれています。普段市販のフィルムや印画紙をメーカーの指示に従って現像しているだけという方も、本書を読むことでさらに一歩踏み込んで化学的な仕組みを知り作品に活かしていくことができます。

印象に残ったところを引用してみます。
第4章 現像処理の化学から

フェニドンの酸化生成物は現像核に強く吸着し、フェニドン自体の現像を抑制する。そのため、現像がより強く起こる高露光部ほど現像が抑制されるので軟調な写真が得られる。程度の差こそあれ、メトールにもこのような特性がある。これらを軟調現像主薬という。

三位信夫他編著、写真のケミストリー、丸善、2001、p.95.



現像が進行するときに、シャドウ、中間調、ハイライトとあって、現像がより強く起こるハイライトほど現像が抑制されるんですね。それで低いコントラストの写真が得られる。なるほど。

現像主薬にメトールのみを用いた現像液に、Kodak D-23があります。

Kodak D-23って微粒子現像液という説明がよくされますが、主となるメトールは軟調現像主薬というのですね。

う〜む、勉強になります。

上の説明はほんの一例です。現像の化学的なプロセスを基礎からしっかり把握したい場合に、とても参考になる内容です。



7つそれぞれの章で各項目について教科書的な説明がたくさんなされています。一つひとつの説明を読んでなるほどと思ったり、それで?と思ってしまうこともあるかもしれません。

次第に詳しくなってくると、自分なりの現像液を作るときに、学んだ知識を応用できるようになると思います。

化学的な知識と市販のフィルムや印画紙、現像液の特性の知識があることで、フィルム現像の結果、プリントの結果を見たときのおもしろさが全然違ってきます。

本書はそのための手助けとなる良書です。



最後に

まじめな本です。千葉大学の教授陣の執筆です。

余談ですが、アラーキーが千葉大学(学科は画像工学科ではないと思いますが)を出ています。芸大卒ではないんですね。まじめな学問をするところから、芸術家が出ているというのはおもしろいです。

本書は教科書的な書かれ方で堅い内容ですが、写真化学の分野に興味のある方なら楽しめると思います。そして、そこから得られる知識を芸術に活かしていくことができます。ぜひチャレンジしていきたいところです。

以上、書評 写真のケミストリー でした。
本書の内容に関心のある方、銀塩写真を学ぶ方の参考になりましたら幸いです。


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書評 The Darkroom Cookbook 第4版