書評 The Darkroom Cookbook 第4版

写真暗室ユーザーのバイブル、スティーブ・アンチェル著 The Darkroom Cookbook 4th Edition についての書評です。

The Darkroom Cookbook 第4版

今回取り上げるのは、スティーブ・アンチェル著「The Darkroom Cookbook 4th Edition (2016) 」です。出版社は、Routledge。

現在、日本においてはフィルムを使った撮影、現像、暗室でのプリントが行われる機会は、感材の価格の高騰、国内メーカーの撤退等によって減少しています。

ですが、これらアナログ写真が重要な表現方法であることにかわりはありません。

本書はフィルム現像と暗室でのプリントを行うアナログ写真ユーザー、とくに単薬を調合して薬液を作る人に向けて、薬品の働きや現像液、停止液、定着液、調色液などの処方の情報をたくさん提供しています。

クックブックの名の通り、薬品を調合し使用することに関しての情報の多さが、本書最大の特徴となっています。

フィルムの現像やプリントといっても、そこには様々な細かい技術があります。本書では、ビタミンC現像液に詳しいPatrick Gainer、Pyrocat-HDについてはSandy King、調色についてはTim Rudmanなどその方面に明るい写真家からの寄稿もあり、387ページを使ってフィルム現像からプリントまで、技術的なことや薬品の使用方法などを一連の流れとしてまとめています。

本書は未邦訳で全編英語です。薬品の名前など日本語で何というのか調べるのに苦労することもあるけれど、Google検索や翻訳サイトにお世話になりながらなんとか読んでいます。

書評なら「読みました」と書くところですが、何度も読み返すため「読んでいます」という表現が適当に感じます。読み切っておしまいとはならないのですね。とてもためになる本です。



目次

1. Planning a Darkroom
2. Equipment
3. Developers
4. Film Development
5. Monobath Film Developing
6. Pyrogallol and Pyrocatechin
7. Print Developers
8. Printing Methods and Techniques
9. Stop Baths and Fixers
10. Toning Prints
11. Photographic Reduction and Intensification
12. Development by Inspection
13. Reversal Processing and Enlarged Negatives
14. Printing Out Processes
15. How to Make Digital Negatives

APPENDIXES
1. Safety in Handling Photographic Chemicals
2. Chemicals
3. Pharmacopoeia
4. Proofing for Maximum Black
5. Archival Print Procedure
6. Time Adjustment for Enlarging and Reducing Prints

Formulas
Conversion Tables
Material Sources
Bibliography
Index

Routledge のウェブサイト(参照 2022/08/27)より




参考になる情報が満載

初めの方に第4版のあいさつがあって、1. Planning Darkroom から技術的な話が始まります。

3. Developersの項目では

Silver halide crystals are selectively reduced, through the action of a developer, to metallic silver.

S. アンチェル著、The Darkroom Cookbook 4th Edition、Routledge、2016、p.21.

ハロゲン化銀は現像液によって選択的に還元され、金属銀になると書かれています。

ここにご紹介したのはほんの一部ですが、いろいろと説明がなされています。

薬品の働きや化学的なことに興味のある方にとって参考になる情報が掲載されており、多くのことを学べます。現像中にフィルムや印画紙の上でどんなことが起こっているのか理解が深まります。

薬品の働きが分かってきたら、自分の表現意図に合うオリジナルの現像液を調合して作ってみるのもおもしろそうです。うまくいけば自分にしか出せないトーン、作風が出来上がるかもしれません。

暗室で一人静かに薬品の調合とテストを繰り返し、フィルムや印画紙にベストな処方を探っていく…。そういうことができたらなんかかっこいいですよね。憧れます。

最後の方のFormulasの項目では約120ページを割いて様々な薬液の処方を紹介しており圧巻です。



アナログ写真ユーザーの友としての本書

本書はフィルム現像から最後のプリントのアーカイバル処理にいたるまで、これでもかという量で読者に主に薬品に関する情報を提供しています。

私のように日本のしかも地方に住んでいると、周りに暗室をやっている人が一人もいないという場合もあります。高校生が駅前の塾で勉強を習うように誰かに写真暗室の技術を習うことは難しいです。

インターネットにはいろいろな情報が出回っていますが、薬液の処方については、元の情報から書き写すときに記述に失敗したり量を間違えたりしたものがそのまま掲載されていることもあります。

そういうこともあるなかで、実際には書籍にあたり、インターネットもやっぱり利用して知識を得つつ作業をしながら写真の良し悪しを確かめていくことになります。

迷えるアナログ写真ユーザーにとって、知識の詰まったデータベースとして本書が出ていることの意味はとても大きいです。



最後に

書評 The Darkroom Cookbook 第4版 は以上になります。
最後までご覧いただきありがとうございました。


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